【ウルトラセブン|第8話|狙われた街】庵野秀明・松本人志など、赤い結晶に犯された文化人とは?

2022年5月2日

※YouTubeでしか語っていない部分があります。

「シン・ウルトラマン」の公開が間近となって、物語が盛んに予想されてきていますな。

映画を観る前に、ぜひ おさえていただいて欲しいのは、庵野秀明氏の作風の由来となっている、実相寺昭雄氏の演出についてです。

今や、日本のアニメ界のみならず、特撮界を代表するクリエイター庵野秀明氏ですな。

その作風は、元を辿ればウルトラシリーズにあるという事は、いよいよ知らない若いアニメ好きが増えてきました。

ちなみにご注意願いたいのは、映画「シン・ウルトラマン」では庵野氏は、あくまで企画・脚本であって、監督は樋口真嗣氏であることです。

 

 

とはいえ、樋口氏も、実相寺監督とは「帝都物語」にて直接関わりがあるので、映画「シン・ウルトラマン」を100倍楽しむために、実相寺マジックといわれる演出を知っておくべきです。

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あらすじ

人間が凶暴化して突然他人を襲う怪事件が立て続けに発生。

ウルトラ警備隊のフルハシ、ソガの2人の身にも、同じ現象が起こる。

事件は「北川町」を中心に起きている事に気づいたモロボシダン。

街で売られていた、タバコに含まれていた赤い結晶体の正体とは?敵の狙いとは?

 

その40 ●●すぎる実相寺アングル問題

「不思議な海のナディア」~「新世紀エヴァンゲリオン」といった庵野秀明を代表するアニメは、絵の構成にいわゆる実相寺アングルを…ほぼ9割用いていると言っても過言ではありません。

「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」などの実写で撮るときには、まさに実相寺昭雄が乗り移っているようだと、彼の撮影風景を見た関係者は語るほどです。

 

そもそも、実相寺アングルって何?

という方のために、この第8話を例にして、代表的な3つの手法を紹介していきたいと思います。

①前に●●を置いてその隙間から役者を撮影。

作戦室の場面のシーン。ヘルメット等や電話機を前に置いて、その隙間から役者さんを撮影します。画としては8割が遮蔽物によって隠されます。

このカメラの手前に物を置いて撮影する技法は、特撮撮影で怪獣を撮影する時にはよく用いられています。

あえて木や電線などを前に配置して、邪魔な物をわざわざ大きく見せることによって、その奥で動く怪獣や宇宙人が巨大に見えるように撮るのです。特撮においては怪獣をいかに巨大で迫力をもたせて見せるか、このような遠近法は合理的な撮影方法です。

反対に、ドラマ本編でこのような撮影を行えば反対に、ドラマ本編でこのような撮影を行えば、物が邪魔で役者は見づらく、目立たなくなるように思えます。ところが…

※実相寺アングルの何故については、YouTubeにて詳しく語っています。

 

②  後から光を照らして役者の影を撮影する。

銃乱射事件に巻き込まれて、負傷したフルハシ隊員。治療のため場所は、メディカルセンターに切り替わったのかと思われます。アンヌ隊員が前を横切った後は、もうどの影が、誰なのか?そして、どんな表情をしていることすら、映像からはわからない状態ですね。

ウルトラマンに比べてウルトラセブンでは、実相寺氏は陰の演出をさらに極端にまで使っています。もはや基地内は、電力を失い、灯火管制状態となったのかと思える真っ暗闇な背景が続きます。

かと思えば、メトロン星人のアジトがあるアパートの前で、アンヌが頭をずらして夕陽が逆光になって映り込みます。

カラー映像を撮影するのに、ようやく歩きはじめた赤子のようだった初代マンに比べて、ウルトラセブンでは「ぐんっ」と撮影技術は成長したので、いかに美しく色を撮影できるか実験的な試みだったのか…

 

③  女泣かせの顔面ドアップ。

物語は終盤にさしかかり、事件の鍵となるタバコを売っている駅前の自販機を、ダンとアンヌはカフェ(というより喫茶店?)で見張ります。

さて、ここで魚眼レンズでアンヌの顔がドアップになります。このようにお肌の状態丸見えの撮影に、アンヌも初代マンのフジ・アキコ隊員もたまらなかったとふりかえります。

実相寺アングルのすべてに共通して言えるのは、役者泣かせな撮影方法なのです。

監督は完成イメージを忠実に計算して、役者はアドリブどころか、cm単位に動きを指示されるわけです。

これは俳優さんはたまりませんな。

後に庵野秀明が、「シン・ゴジラ」を撮影するのに、実相寺と全く同じ撮影を実行したところ、完成した映像を観るまでスタッフを納得させるのに監督は苦労したそうです。

 

その41 初代マンとつながるセブンの実相寺演出

①夕焼けと怪獣

セブン第8話には、初代ウルトラマンでも用いられた実相寺演出が取り入れられています。まずは、夕焼けをバックにした特撮シーンです。

リアルな4K映像が主流となりつつある現代では、【総天然色】という言葉は聞き慣れませんね。ウルトラQ~マンにかけて、映像が「モノクロ」から「カラー」に切り替わった事に象徴されるように、初期のウルトラシリーズはカラーテレビの草創期でした。

初代マンの頃は、カラー撮影に慣れていないスタッフ達ばかりで、明るさや色の状態を機械で測らないと、撮影できるかわからないくらいでした。セブンの頃になって、ようやく感覚でわかるようになってきました。

科特隊の服がオレンジ色だったのはもしかして…

国際的に救命救助を象徴する色であった事から、オレンジ色になったとも語られています。

そんな、オレンジの夕焼けを、実相寺は初代マン第15話「恐怖の宇宙線」第35話「怪獣墓場」において、怪獣たちの哀愁を感じさせる背景に用いました。

セブンでは、さらにバージョンアップします。まず、ホーク1号が夕日にむかって発進するシーンからはじまり、夕焼け色に照らされながら、曳光弾が飛び交い美しい航空戦がえがかれます。

同時に地上では、夕焼けを背景に、セブンとメトロン星人の影が交錯し合う戦闘は強い印象を残します。

 

② 喪服を着た女

初代マンの「怪獣墓場」といえば、喪服姿をしたフジ・アキコ隊員ですな。

第8話においては、事故で叔父を亡くした喪服を着たアンヌ隊員が映し出されます。登場するヒロインや女性隊員に対して、あるメタファーを感じるような、隠れた大人の演出が…

独自の考えた演出を貫き通す実相寺の気概が感じられますな。

もっとも、独特な演出を実践したことで、賛否両論となり、苦労したのではないでしょうか?

 

③  シュールレアリズム

もっとも、実相寺演出が賛否両論となったエピソードとして有名なのは、シュールなギャグシーンです。

代表的なのは、初代マン第34話「空の贈り物」です。ハヤタ隊員が間違えてスプーンで変身しようとした、世に言う「カレースプーン事件」です。

それを観た子どもたちは、スプーンを持って真似をしたりして、ウルトラマンを身近に感じる印象深いシーンとなり好評でしたな。

しかしながら、ウルトラマンを神秘的なヒーローとして、えがこうとしていたスタッフには、批判を受けることになってしまいました。

そして、実相寺はセブン第8話でも反響を巻き起こします。

そもそもセブンは、海外で放送する事を狙っていたので、日本の和風を感じるものをなるべく映さないようにしていました。

ところがどっこい、ちゃぶ台を前にして、モロボシダンとメトロン星人が語り合うという、とんでもシーンを創ってしまいました。

このシーンは、特撮ファン以外でも一度は見たことのある、伝説名場面として、後世に残る偉業となったわけですが…

実相寺のこうしたシュールレアリズムはある大物芸人の作品性に影響を与えていくのです…

 

その42 もはや日本エンタメの教祖実相寺昭雄

「赤い結晶体」もとい、「実相寺マジック」に犯されたのは、作品の登場人物だけとは限りません。

第8話「狙われた街」の物語は、ウルトラの枠を飛び越えて、日本の映像作品において伝説となるまでの傑作回として、多くの日本の映像作家たちに影響を与えました。意外と知られていないのは、人気お笑い芸人「ダウンタウン」の松本人志もその1人という事です。

それを強く印象づけた、最後に流れた浦野光氏の有名なナレーション。

「メトロン星人の地球侵略計画はこうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは恐るべき宇宙人です。でもご安心下さい、このお話は遠い遠い未来の物語なのです。え、何故ですって?我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから。」

 

この第8話の最後のナレーションの素晴らしさを、ダウンタウンの松本人志はすべらない話のスピンオフ番組において語っています。


松本氏は2000年代より何本か映画監督を務めてました。第1回監督作品として話題となった、映画「大日本人」は、明らかにウルトラマンのオマージュをした実験的な映像作品です。

他にも、彼のコントや映像作品には、ウルトラの影響を受けたものがあるのかもしれませんが…松本がウルトラを語っているはっきりした作品は第8話なのです。

かくも実相寺昭雄作品は神格化され、認知度が高くファンがあついわけですが…初期のウルトラシリーズでは、実相寺監督のみならず飯島監督のような、日本映画界を代表する一流監督たちがメガホンをとって参加していたのです。

それも東宝の黒澤明監督の助手やスタッフたち等、映画界のトップから、円谷英二を慕って多くの映像作家が円谷プロに携わっていたのでした。

 

その43 時代の●●を追いかけた実相寺監督

第8話はタバコが物語の鍵を握ってくるわけですが、2022年現在信じられない話ですな。

 

タバコを吸える喫煙所は限られ、しかも受動喫煙防止のための条例が制定されるほど、世の中でタバコを吸う人の比率が格段に少なくなってきました。

昭和時代は、 家や職場、公の場でタバコを吸う行為は特に問題なく、ほとんどの大人がタバコを吸っていました。

モロボシダンの「北川町で買った、タバコを飲まないように…」と言う日本語が出てきますが、飲まないようにとは「吸わないように」と言う意味であることも、知らない世代が増えてきました。


ジブリ映画「風立ちぬ」 にて、喫煙シーンが放映されることすら躊躇してしまう現代、作戦室でタバコをすぱすぱ吸うウルトラセブンには、ある種のノスタルジーが感じられるのではないでしょうか?

タバコをつかって侵略を企てた、メトロン星人の目論見は外れたわけですな。

しかし、約40年後、実相寺監督は「ウルトラマンマックス」にて、「狙われた街」の続編にあたるような物語をつくりました。再び「北川町」を舞台にしたマックスの物語では、メトロン星人は人間の携帯電話の依存に目をつけました。

もしも…令和時代に実相寺監督が生きていたら…

それにしても、結局は実相寺昭雄氏について、かなり語ってしまいましたな。

それだけで第8番を語るのにはもったいないので…登場した敵のメトロン星人について、語って終わりたいと思います。

 

その44 幻覚宇宙人メトロン星人のヤバすぎる●●とは?

メトロン星人は、 ウルトラシリーズ屈指の人気キャラクターとして登場しまくります。

どちらかと言うとウルトラセブンでは温厚であったメトロン星人、だがしかし、ウルトラマンエースに登場した。メトロン星人Jrは かなり悪質で、エースだけでなく防衛チームTACを苦しめました。 オマージュなのか分かりませんが、セブンもエースも…

Jrの方は若干体の中身が●●ですな。

ウルトラセブンのメトロン星人を元祖と呼ぶなら、 ウルトラマンマックスにおいて元祖メトロン星人は再登場します。 マックスでは戦闘もせず、迎えの宇宙船に乗ってそのまま母星へと帰っていくシーンが描かれます。

ところで、ウルトラセブンの本編の世界と直結する平成セブンでは、メトロン星人は攻撃的なタイプの宇宙人としてセブンに戦いを挑みます。マックスとの矛盾が生じるわけですが…これは、追々ウルトラセブンのパラレルワールド問題にて語って参りたいと思います。 

ちなみに、平成ウルトラシリーズの後も、メトロン星人はときにちゃぶ台返しをくりだしたり、オタクダンスをしたり、とシュールなキャラクターとしてリバイバルされ、 ウルトラマントリガーでは、レギュラー出演してまさかの防衛チームと宇宙人の橋渡し、超兵器開発のための主要メンバーとまでなっていきます。 

メトロン星人の不動の人気を示していますな。

メトロン星人は登場回数は多いですが、物語性が強いせいかなのか、攻撃技があまり記憶にありません。

ウルトラマンの格闘ゲームとして有名な「ウルトラファイティングエボリューション」というプレイステーションソフトにおいて…


メトロン星人の技は、バルタン星人のような手から曳光弾が発射されるものでした。これは初期から、あったものなのかははたして謎です。

 

<参考文献一覧>
白石雅彦『「ウルトラセブン」の帰還』2017,双葉社
ひし美ゆり子「セブンセブンセブン アンヌ再び…」2001,小学館
ひし美ゆり子「アンヌ今昔物語ウルトラセブンよ永遠に…」2017,小学館
円谷英明「ウルトラマンが泣いているー円谷プロの失敗ー」2013,講談社