【ウルトラセブン|第6話|ダーク・ゾーン】アンヌの私室が丸裸にされた内緒の話とは?

2022年4月17日

※YouTube版でしか語っていない部分があります。

帰ってきたウルトラマン以降、初代ウルトラマンやウルトラセブンに登場した、怪獣や宇宙人がリバイバルされ登場するパターンは、定番となってきました。

突然ですが…

お父さんのための平成・令和ウルトラマン講座!

ウルトラマンティガ〜メビウスを平成ウルトラマンシリーズと呼びます。ウルトラマンマックス、メビウスは原点回帰だったので、平成シリーズまでは、ギリギリ知ってると思われる方は多いかもしれません…。

2010年代以降、円谷プロの経営が新体制の中で制作された、ウルトラマンギンガから続く、Zやトリガーやデッカーのようなウルトラマンたちをニュージェネレーション世代と呼びます。

ニュージェネレーションでは、新規怪獣より昭和ウルトラシリーズの人気怪獣や宇宙人の再登場が圧倒的に増えてきました。

さらに、客演どころかレギュラー出演するまでになってきました。特に、ウルトラセブンの宇宙人は人気が高く出演が多いです。ウルトラマンジードの相棒「ペガ」はペガッサ星人の子どもです。今回は元祖ペガッサのお話です…

👇忙しい人は聞き流しできるラジオをどうぞ👇

 

あらすじ

アンヌ隊員のプライベート・ルームに謎の黒い影が出現した。黒い影は、自分の正体は宇宙人であり、危害を加えるつもりは全くないのだと語った。そのころ、宇宙空間都市ペガッサから、システムトラブルが発生したため、地球の軌道を変更してほしいという連絡が入っていた。このままでは地球と衝突するというのだ!(円谷プロHPより)

 

その32 衝撃!防衛軍基地の自動ドアは特撮だった

第6話は、パトロールから戻ってきたモロボシダンとアマギが、地球防衛軍基地の長ーい廊下を歩くシーンから始まります。

基地内部の奥行きの広さとナンバーが書かれた六角形の自動ドアがならぶ様子に、後の「スター・ウォーズ」のデススターの基地内部を思わせる、近未来な光景に舌を巻きます。

円谷が「スター・ウォーズ」に影響与えたといったも過言ではありませんな。

ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ4新たなる希望」の制作に着手する際、円谷プロのスタジオを模範として特撮スタジオ作ったそうです。

ところで、基地の扉はすべて自動ドアで開きますが、1967年の当時は自動ドアは珍しく、作成室の扉は2人のスタッフが息を合わせて「せーのっ!」で手動で開けていたと言う裏話はよく知られています。

セブンは「オールアフレコ」ですからな。

「オールアフレコ」とは、アニメと同じ様に、撮影した映像に、後で音声をつける方法です。ちなみに信じられない事ですが、動画と音声を同時収録されるようになったのは、平成ウルトラマンシリーズからなのです。

自動ドアが開く時には、スタッフは「開けた〜」「閉めた〜」と言って息を合わせていたそうです。初期の頃は左右の動きがずれているようですが、そのうち揃って開く仕組みに改良されていきました。

すべて手作りだったわけですな。

 

その33 アンヌ私室を丸裸にされる!

地球防衛軍の基地やウルトラ警備隊の作戦室の撮影が行われた場所は、セブンの関係スタッフには「美セン」と言われました。「美セン」とは「東宝美術センター(元東宝ビルト)」です。

「美セン」は撮影所としては環境はあまりよろしくない、トタンの屋根で倉庫のような場所だったと、出演した俳優陣は口々に撮影の苦労を振り返っています。

例えば、屋根がトタンなので雨が降れば、相手の役者さんの声が聞き取れない程、雨音がうるさく、演技に支障があったそうです。

季節にも影響を受けやすく、夏は暑くて冷房もなくパイプで冷気を送って凌ぎ、冬は寒すぎて息が白くなってしまうなど、苦労して撮影を進められたことがうかがえます。

「美セン」には常設セットとして、作戦室、メディカルセンター、またウルトラホーク1号、2号、3号の操縦席がありました。

第6話の目玉である、アンヌの部屋は、特別に組まれたセットだったわけです。

アンヌ隊員のプライベートルームが丸見えですな。

ひし美ゆり子さんによれば、ホテルのようなとても広い部屋に感激したそうですが、置かれているインテリアや小物はご自身が注文したわけでなく、男性美術スタッフが「女の子の部屋ってこんなんかな?」と一生懸命、たくましく想像を膨らませて作ったセットであるそうです。

※詳しくはYouTubeで解説しています!

ん?本編にこんなシーンはなかったよね?

その通りです。このように本編には出てこない写真は、ドラマ撮影以外で、撮影された「スチール」と言われる、いわゆるイメージ画像なのです。

ペガッサ星人は、こうして見ると、不気味なフォルムでいて、どこか愛くるしく、現代でも通じるスタイリッシュな見栄えですよね。デザインをつとめた成田亨氏は、宇宙人や怪獣の造形が、いかに秀逸だったかがわかります。

 

その34 天才成田亨氏のデザインが天才すぎる

成田亨氏とは、ウルトラマンやウルトラセブンのデザインをした芸術家です。

映画「シン・ウルトラマン」公式サイトより引用

2022年に公開予定の、成田亨氏の原画を忠実に再現したカラータイマーのないウルトラマンが、映画「シン・ウルトラマン」においてお披露目された事により、あらためて成田亨の名が世に広まりました。

ウルトラセブンの画面に映る世界は、成田亨氏によって創造されたと言っても過言ではありません。

セブンや宇宙人・怪獣のデザインだけでなく、ウルトラホークなどのメカや、ウルトラ警備隊の隊員服、作戦室のセットといった、「ウルトラセブン」に登場するありとあらゆるものは成田亨によってトータルデザインされました。

成田亨のデザインをした初代マン・ウルトラセブンが基礎となり、新しいウルトラマンや怪獣たちが新規に生み出されていったのです。

しかし、成田亨氏のデザインがあまりに天才的であるが故に、ウルトラマンシリーズが新しくなるに従い、成田亨氏のデザインに原点回帰していくのではないでしょうか?

デザイナーたちの苦労が伝わりますな。

ウルトラセブンでは、その他にも、池谷仙克氏等、若い芸術大学の学生たちが、スタジオに通い詰めていたことがわかっています。若い新進気鋭のスタッフたちがQ、初代マン、セブンのといったウルトラマンの黎明期を築きあげてきたのです。

 

その35 密度8万倍のペガッサ市もはや●●ホール

第6話の物語は「小学生が閃光を見た」という通報や、怪電波を受信した通信隊員達がヒソヒソ話をするといった、絶妙な伏線からはじまり、謎の影(ダークゾーン)との会話を中心に展開するといった、脚本を書いた若槻文三氏のドラマ構成の妙が光ります。

怪電波の内容から、地球が深刻な状況にある事が判明します。

「…こちらはペガッサ市。…地球に軌道変更をお願いします。ペガッサ市は、動力系統に重大な故障をきたしました。…宇宙空間都市ペガッサ市の市長室から送信しています。ペガッサ市は今から80時間の間、地球の軌道変更を要請します。」

地球と衝突としようとしている「宇宙都市ペガッサ市」。ウルトラ警備隊はペガッサの住民に地球への移民を進める人道的な対応を行います。
こうした地球とペガッサをめぐる物語が、ベトナム戦争にゆれる当時の国際社会をえがいていることは、すでに多くの方に語り尽くされているので、ここではあえて違う視点で見ていきます。

私が中学生くらいに「空想科学読本」というものが流行りました。ウルトラマン等の空想シリーズを科学的に検証するシュールな内容の本でした。

ウルトラセブンのSF考証は、「空想科学読本」的に検証しても、金城哲夫氏の手により完成度が高くできています。例えば第7話「宇宙囚人303」でホーク1号のβ号でアンヌが拉致されたさいに、キリヤマ隊長の台詞には

「待て!β号は大気圏脱出速度を持っていない。宇宙へ飛び出す心配はない。」(キリヤマ)

とさりげなく言った言葉の中に、ロケットが地球を脱出する原理について触れているように、科学的根拠が徹底して盛り込まれている訳です。

しかし、少しいじわるですが「空想科学読本」的に第6話のSF設定を見ていくと一つの疑問が湧いてきます…

ダークゾーンに潜むペガッサ星人は宇宙都市ペガッサ市をこのように語っています。

「ペガッサ星が消滅する前に、脱出したペガッサ星人が、宇宙空間に素晴らしい大都市を建設した。それが、宇宙都市ペガッサ市だ。地球から見ればけしつぶのような大きさだが、都市をつくっている物質の密度は地球の約8万倍だ…」

ペガッサ星人

それを聞いてダンは次のように慌てふためきます。

「大変だアンヌ!ペガッサ市は見かけより8万倍の大きさだ。それが地球とぶつかるんだ!」 (モロボシダン)

ダンは密度が8万倍もあるペガッサ市と衝突してしまえば、地球が消滅してしまう事を問題とします。

「密度が地球の8万倍」って…

おそらく、事の重大さを誇張するために設定された数字なのでしょうが、そもそも慣性の法則に従ってペガッサ市の密度がいかに小さくても、地球に落下すれば、人類は滅亡してしまう事に変わりは無いわけです。

それよりもヤバい話は、「密度が地球の8万倍」だとすれば、ペガッサ市の質量と重力を計算すると、木星よりバカでかい重力をもった惑星が地球の軌道にやってきているという事です。

重力的に小さなブラックホールみたいな、とんでもない人工天体なのです。

ホーク1号で近づこうものなら、ペガッサ市の重力にあっという間に引っ張られて、落下してしまいます。それどころか、巨大な引力で、太陽系の全体の軌道が狂いまくってもおかしくない話です。

「ウルトラマンレオ」でウルトラの星が地球に衝突するよりもヤバい話ですな。

ところがペガッサ市は、あっけなく北極基地からやってきた宇宙爆撃艇の新爆弾によって破壊されてしまうのでした。

 

その36 ガンダムを先駆ける宇宙都市ペガッサ市

第6話はSF作品として先進的な物語であり、宇宙に浮かぶ人工都市といった話は、1950年代後期にアメリカの「ジェイムズ・ブリッシュ」の小説によって書かれたばかりでした。

宇宙都市ペガッサの都市の様子や設備について詳しくは、ダンとアンヌがダークゾーンに潜み、まだ正体を明かしていないペガッサ星人との会話から見えてきます。

「私の町は、君たちの町とはだいぶ違うんだ。もちろん工場はあるさ、…想像もできない巨大な工場がね。そこでなんでもつくるんだ。驚いちゃいけない、水も空気もだ。(省略)工場が止まれば数時間内に、全市民は窒息死だ。われわれの都市は自然の力をひとつもうけていないんだ。…科学が進むということは不便なものだ。君たちも気をつけるがいい」

ペガッサ星人

聞いているとガンダムのスペースコロニーが思い浮かびますな。

1979年放送の「機動戦士ガンダム」のスペースコロニーのモデルとされる、「オニールのシリンダー」が世に出たのは1969年です。

なんと、その2年前にすでにウルトラセブンはストーリーの中で、人工宇宙都市をえがいている、SF作品として世界的に先端を行っていたといえる訳です!

「スターウォーズ」のジョージ・ルーカスだけでなく、スティーブン・スピルバーグも、まだ名も知れない若い時に、円谷プロのスタジオを視察に来ていました。ウルトラセブンに代表される円谷のSF作品は、後にブームとなるハリウッドのSF映画に多大なる貢献を果たした作品なのです。

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<参考文献一覧>
白石雅彦『「ウルトラセブン」の帰還』2017,双葉社
ひし美ゆり子「セブンセブンセブン アンヌ再び…」2001,小学館
ひし美ゆり子「アンヌ今昔物語ウルトラセブンよ永遠に…」2017,小学館