【ウルトラセブン|第2話|緑の恐怖】最高のSFホラー作品「遊星からきた生物X」とは?

2022年4月13日

※YouTubeでしか語っていない部分があります。

物語は宇宙ステーションV3から、休暇のために地球に帰還したイシグロ隊員の身の回りで起こる怪奇現象と、妻ミツコとのラブラブなシーンを中心に展開します。

 

セブンに客演する隊員や博士は愛妻家の方が多いですよね。

確かに、第19話「プロジェクト・ブルー」に登場するミヤベ博士も、ブロンドヘアの美しい白人の奥さんとラブラブな場面も印象的ですよね。

しかしながら、奥さんの車がエンコしてしまい、ダンとアンヌはポインターでイシグロ夫妻を自宅へ送ることになりました。

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あらすじ

宇宙ステーションV3から一時帰還したイシグロ隊員。彼の自宅まで送り届けたダンは、イシグロ邸の庭で、地球には存在しないはずの“チルソナイト808”を発見する。その夜、イシグロ邸付近で人間が襲われる事件が続発する。この事件と“チルソナイト808”の関係は? 同じころ、イシグロの妻は夫の異変に気づく。

円谷プロHPより

 

その7 昭和の香りが漂う未来の物語

エンコって何?

現代では外国車とは、高級自動車のイメージがあります。しかし、ウルトラセブン放映時、1967年は日本にはまだ国産車は少なく、圧倒的に安い外国車が多かったのです。「エンジン故障」はあたり前に起こっていました。エンコとは「エンジン故障」の事です。

車のエンジン故障した場面は、セブンでは第4話「マックス号応答せよ」や第25話「零下140度の対決」など、度々エンコによって車が使用不能になる場面がでてきます。

科学技術のすいを集めたポインター号ですら、エンコする演出があるくらい、現代にくらべて、昭和の機械はもろく故障しやすかったのです。

ということで、ウルトラホークの通信機器でさえ、「使用不能!」という場面では、敵からの妨害ではなく、故障が原因だったりする、スマホ時代のいまでは考えられない時代背景があるのです。

古きよき昭和の趣きとして捉えていきましょう。

※詳しくはYouTubeにて語っています。

 

その8 ひとり言が多いモロボシダン

ダンは、イシグロ隊員を家に送った後に、ロータリーの真ん中に、奇妙な金属塊があるのに気づく。ダンの目は青くなり透視します。異変に気づいたダンのモノローグがはじまります。

「おかしいぞ、透視できない。待てよ、この物質はどこかで見たことがある。そうだ、チルソナイト808だ。確かワイアール星から産出される金属だ。地球では存在しないはずのチルソナイト808がなぜこんなところに?」(モロボシ・ダン)

こうした、ダンの独り言演出がよくあります。それは、ダンが「擬態型」のウルトラマンであるからです。

「擬態型」のウルトラマンってなに?

ウルトラマンと人間体の関係には、2つのパターンがあります。ほとんどの場合は、第1話で怪獣との戦いに巻き込まれ、勇敢に戦いながら命を落とした者に、ウルトラマンが体をかりる代わりに、再び命を授ける「憑依型タイプ」でした。

ところが、セブンでは新しく、普段は正体を隠すために、ウルトラマンが人間に変身する「擬態型」という設定がされました。

「擬態型」のウルトラセブンは、人間体でも超能力を使う事ができたり、他の惑星や異星人に対する知識があったり、人間よりも優れた能力を自在に使えます。時には、地球人の技術力では難しいメカの製造や、所持できるのも特徴でしょう。

カプセル怪獣のアイテムなどが代表的ですが、第1話では、見えない宇宙船を見える化するための、特殊噴射装置の製造を、ダンは設計しました。

ボタンひとつでウルトラアイを空中移動させる機械がでてくるなど、地球の技術では、できないであろう便利アイテムがよく登場します。

しかし、デメリットもありますが…後日語っていきます。

モロボシダンのように「擬態型」をしたウルトラマンは、能力が使えるがゆえに、侵略者の陰謀を見抜けたとしても、自分の正体がバレないように、独り言が多くなる傾向にあります。

時に、思わず正体バレになる、余計なひと言で「お前何で知ってるんだ。」となる場面が面白いですな。

 

その9 侵略者宇宙人とは※メリカの事か?

夜になりイシグロ隊員に変化が起きます。体が緑色になると、段々とからツタのような植物状のものが伸び始めていきます。すると、植物のツタが集合したような異形の姿をした今回の敵となる相手はワイアール星人に変身します。

星人?このシルエットで怪獣ではなくて、宇宙人なんだ。

そうなんです。ウルトラセブンの戦う相手となる敵は基本的に宇宙人です。

第1話の冒頭ナレーションにあったように、セブンでは「地球は侵略者の魔の手に狙われている」というキーワードがよく使われています。じつは、本編のストーリーで語られていない、「敵は宇宙からの侵略者に統一」するという裏設定があるのです。

地球は異星人同士の惑星間侵略戦争に巻き込まれているために、多くの宇宙人が侵略者として登場する設定とされています。

1967年放映当時の日本は、いまだ沖縄は返還されておらず、第二次世界大戦後から20年経つとはいえ、世界は米ソ冷戦下で、いつ第三次世界大戦が起こるかがわからない緊張状態でした。メインライターである金城哲夫氏は、沖縄出身ということもあり、そういった世相が随所に反映されているのでは?とも言われています。

Q、マンと振り返れば、怪獣も出れば、宇宙人や巨大な生物が出る等、オムニバスに物語が進行していました。

ウルトラセブンでは、企画段階より、新たな路線を目指すために、物語全体にさらに統一性がはかられるようになりました。

「敵は宇宙からの侵略者に統一」され、敵対する宇宙人が必ず存在して、人間サイズの等身大、巨大化して戦うか、もしくはUFOとドックファイトするか、その手先である怪獣やロボットが登場して戦う。

新たな路線を目指す試行がされました。

 

その10 遊星からきたチルソナイト生物X

ワイアール星人は相手に寄生する事で増殖する恐ろしい宇宙人です。脚本段階では「生物X」という名前でした。人に寄生して増殖をしていく知的生命体でXといえば、1982年放映の映画「遊星からの物体X」を思い浮かべます。

この映画は、1951年放映の映画「遊星よりの物体X」の続編であり、原作ジョン・ウッド・キャンベル短編SF小説「影が行く」は1938年に発表されています。

さらにさらに、「遊星から…」といえば初代マンの作品に「遊星から来た兄弟」というタイトルがあります。幻の欠番作品となってしまいましたが、ウルトラセブンの第12話のタイトルは「遊星より愛をこめて」でした。第2話はキャンベル短編SF小説の物語をオマージュしたものかもしれません。

ちなみに、「チルソナイト」という物質は、ウルトラQの第13話「ガラダマ」、第16話「ガラモンの逆襲」にて、地球上に存在しない宇宙金属として、すでにウルトラシリーズで登場した物質です。

「チルソナイト」はウルトラQでは侵略ロボット「隕石怪獣ガラモン」を誘導する電子頭脳であり、地球の科学力では破壊できない物質です。ガラモンは初代マンでは、姿そのままにピグモンというウルトラを代表するマスコットキャラとして登場します。Q、マンではラゴンのようにスピンオフ怪獣が登場して、シリーズの連続性がうかがえます。

ウルトラセブンでも、同じように、以前登場したウルトラ怪獣を出すような案がありました。幻の未使用シナリオ「宇宙人15+怪獣35」という、視聴率獲得のために合計50体の怪獣とセブンが戦うとんでもエピソードが予定されていました。

50体の敵の中には、ウルトラマンで登場したバルタン星人やレッドキングといった、宇宙人や怪獣を登場させるはずでしたが、さすがに断念されました。

結果として、セブンに登場する敵のすべては新規につくられたキャラクターでした。

ルトラシリーズの連続性の名残りとして、チルソナイトという同じ名前が使われ、ガラモンと同じようにワイアール星人も、チルソナイトの発信する電波により操られます。

庭にある巨大なチルソナイトと、イシグロ隊員の机の中に隠された小型のチルソナイトがあり、大きい方のチルソナイトは地球防衛軍の技術では、破壊することもできませんでしたが、小さい方は、ダンが普通のハンマーで叩くと壊れて中から機械の部品があらわれ、連動するように、大きい方も壊れて、中からもう一人のイシグロ隊員が現れます。

地球の技術では、壊せないといった部分も、Qに対するオマージュが感じられますな。

 

その11 セブンの物語はホラーSFだ!

ワイアール星人は生物Xという名前から、ナレーションのアフレコ段階で葉緑素「YouRyokuso」のYRで「ワイアール」という改名されました。

こうした植物をモチーフとした敵を相手とした物語は、ウルトラシリーズではホラー回が多い傾向にあります。

ウルトラQでは「マンモスフラワー」、初代マンでは「怪奇植物グリーンモンス」「吸血植物ケロニア」、ウルトラマンタロウ「蔦怪獣バサラ」ウルトラマン80「植物もどき怪獣ゾラ」といった怪談調のストーリーに、子供の頃にトラウマを植えつけられたのでは?

問題のシーンは、夜道を歩く通行人をワイアール星人が襲うシーン。この通り魔的な場面を見て子供の頃に恐怖を植えつけられた方も多いのでは?襲われた男性は、ダンとアンヌに保護され、地球防衛軍基地のメディカルセンターに収容されますが、苦しみだして突如ワイアール星人に姿が変化します。ワイアール星人は人に寄生する事が発覚した場面です。

なお「緑の恐怖」とは【ウルトラQ】以前の企画である【WOO】と【ウルトラマン】につながる【科学特捜隊ベムラー】、旧【レッドマン】のサンプルストーリーに登場するタイトルで、そちらは【ウルトラマン】の「ミロガンダの秘密」の元ネタとなった。面白いことに通レッドマン「緑の恐怖」のクライマックスの【ウルトラセブン】同様小田急のSE(スーパーエクスプレス)車内が舞台となっている。

※白石雅彦『ウルトラセブンの帰還』より

いまでいうところの寄生獣みたいなホラーSFだね…

そうなんです。いまでは「ウルトラマン」などの特撮番組は、子供の観るものと一般的に思われてますが、はじめはちがいました。円谷プロは「ウルトラQ」の企画をたちあげた際、スタッフ側のおもいとしては、アメリカのSFドラマ「ミステリーゾーン」のような、大人向けのSFホラー作品を目指していました。

ところが、毎週日曜日の夜7時の放送枠は、子供を番組視聴者としていました。さらに、1960年代は初代「ゴジラ」以降、怪獣ブーム映画ブームはピークを迎えていました。なのでテレビ局側としては「毎週TVで怪獣映画を見れる」ようにすれば視聴率は確実にとれると、怪獣をメインにした脚本を要請しました。

円谷プロはミステリーSF路線から怪獣ものを泣く泣く作らざるえなくなったわけです。

とはいえ、撮影当時を振り返ったインタビューでは、スタッフもキャストも、「子供番組を作っているつもりはない」と発言しており、本格SF路線をあきらめず制作に臨んだことがわかります。

セブンは、後の「マイティジャック」に続くメカをどうかっこよく撮るかの特撮技術、「怪奇大作戦」に近い怪奇ホラー的な物語展開がみられます。

なので、前作「ウルトラマン」に比べて、セブンは宇宙人との格闘シーンどころか登場時間は数秒という、ヒーロー番組としては異常事態が起こっているわけです。

というわけで、今回はウルトラセブンは変身からわずか約120秒でワイアール星人をアイスラッガーで真っ二つにした後に、エメリウム光線であっさりとやっつけてしまいます。

 

その12 ワイアール星人は567社会を予言していた?

あまり語られませんが、ワイアール星人の寄生能力は、人類を滅亡危機に追い詰めるものでした。

「警察からの報告では、この3日間で十数人の被害者が出ておる。しかも恐るべきことには、それらがみんな怪物化し人間に襲いかかるのだ。襲われた者がさらに怪物化して人間を襲う」(タケナカ参謀)

「ネズミ算式で、増えていくわけですね」(キリヤマ)

「そのとおりだ。このままいけば数か月後には、地球上の全人類は怪物化してしまう。これはアマギ隊員の撮った怪物の写真だ。学者の説では、宇宙の生物らしい。これは明らかに人類への挑戦か侵略である」(タケナカ参謀)

「みんな…、これ以上被害者は出せん。市民の夜間外出を禁止しよう」(キリヤマ)

な、なんと、1967年当時に2022年現代を連想させる「不要不急の外出を自粛」を連想させる言葉をキリヤマ隊長は提案をしたのでした。

また、「寄生獣」もそうですが、ゾンビ映画やパンデミック映画のような、ひとに寄生する事で、人類が滅亡の危機に陥るという、世紀末的なストーリーをさりげなく先駆けた内容なのです。ウルトラセブンが名作といわれる理由がわかります。

最終的にイシグロ隊員に化けていたワイアール星人本体がセブンに撃破され、その後、司令室に警視庁より事件の幕引きを思わせる台詞が。そこでキリヤマ隊長は「了解!…この台詞はウルトラセブンに言ってもらいたいなぁ…」と言います。

ウルトラ警備隊隊員が「ウルトラセブン」と呼ぶのは第2話が初。アンヌの「ウルトラセブンがんばってー」より、セブンとホーク1号ですれ違ったアマギ隊員の「あっウルトラセブンだ!」というセリフに続き、ダメ押しのような最後の隊長のセリフです。第1話登場時に命名シーンがなかったフォローなのでしょう。

ところがどっこい、最後に…

「事件は終わった。だが、宇宙からの侵略が終わったわけではない。あの鉛色の物体が、いつあなたの庭に落ちてくるかもしれないのです。明朝、目が覚めたら、まず庭をご覧ください…」

ナレーション

という、視聴者がモヤモヤとストーリーを引きずるように語ります。「ウルトラQ」以来より受け継がれた、観た物語の恐怖を、現実にまで引きずるうまい演出が、何十年経ってもセブンの物語が心に焼きついている理由ではないでしょうか。

 

<参考文献一覧>

白石雅彦『「ウルトラセブン」の帰還』2017,双葉社
ひし美ゆり子「セブンセブンセブン アンヌ再び…」2001,小学館
ひし美ゆり子「アンヌ今昔物語ウルトラセブンよ永遠に…」2017,小学館
森次晃嗣「ダン モロボシダンの名をかりて」1987,扶桑社